
私が埼玉大学に入学したのは2015年。ちょうど無料塾ひこざが発足したタイミングで、いわば「ひこざらす。」一期生としてひこざに関わらせていただきました。
気が付けばあれから10年。無料塾ひこざも10周年を迎えたとのこと、誠におめでとうございます。
10年前、教員を志していた私は実際に子どもたちと関わる時間を持ちたいと思い、ひこざらす。にジョインしました。
ひこざで過ごした3年間で、さまざまな境遇や悩みをもった子どもたちと対峙しました。私が担当していたお子さんがひこざへ通えなくなってしまって自分を責めたこともあり、一方で、卒業したお子さんが「五十嵐さんに会いに来ました」と笑顔で訪ねてきてくれたこともありました。
声色まで蘇ってくるような子どもの言葉や、空気まで伝わってくるような場面の記憶もあります。
そこには子どもたちの温度があり、大学生の温度があり、地域の方々の温度がありました。玄関に溢れる靴、子どもたちや大学生であふれかえる部屋、そこかしらで交わされる子ども同士、子どもと大学生のやり取り、笑い声。それが、私が覚えている「無料塾ひこざ」です。
学校でも家庭でもない、サードプレイスとしての子どもたちの居場所。その重要性を肌で体感した私は、卒業後は放課後等デイサービスの支援員として働き始めました。子どもたちが心から安心できる大人であること、場所を提供すること。その信念は、ひこざで過ごした時間から生まれたものでした。
いま、私は二人の息子を育てるひとり親です。子どもたちは地域の方々に見守られ、たくさんの人と関わり、ときに子ども食堂などを利用しながら、のびのびと育っています。親として未熟な私ですが、子育てで心がけていることは、彼らが一人でも多くの大人と関われるようにすることです。
サードプレイスをもって育つことは、彼らの人生の基盤を固めることに繋がるはずだから。そう信じる私の心の中にはいつも、ひこざでの景色が広がっているのです。
あの頃一緒に過ごした子どもたちは、みんなもう成人しているのでしょう。今も幸せに笑っていること、ただそれだけを願っています。
寄稿者:五十嵐春菜